【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第6回

リプレイス大作戦その4~外材、化石燃料以外の代替

 

・はじめに:木質バイオマスの広がる可能性

 前回までで化石燃料の代替を如何に木質バイオマスで実現するかをご説明してきましたが、それ以外にも新たな木質バイオマスの新たな活用方法や既存の木質バイオマス以外の素材のリプレイスが研究、開発、社会実装されてきています。その一部を今回ご紹介したいと思います。

 

・食料代替

 日本の輸入量最大の食料は飼料用とうもろこしで、金額ベースでもたばこ、豚肉に次ぐ3番目の輸入額の作物です。輸入量は1,500万トン、金額ベースでも約6,000億円とかなり大きくなっています。

 

 飼料を木質由来の物にすることで飼料も含めた食料自給率向上への貢献ができそうなのが、日本製紙グループの開発した元気森森です。木材をチップ化し、脱リグニン処理を経て製造されます。廃液は燃料に使えるそうです。

 

 既に家畜飼料として元気森森を活用している畜産業者も存在しており、既に社会実装されている技術、製品です。元気森森の工場を地域に誘致し、林業と畜産業連携を行えば木質バイオマスの地産地消を推進することができ、海外に流出している飼料代金や燃料代金を地域に取り戻すことが可能です。

 養牛用飼料 元気森森®|基盤技術研究所(技術紹介)|日本製紙グループ

 

 また、日本製紙グループは食品添加剤のセレンピアフードという製品も製造販売しています。

 セレンピア® フード|Sustainable PRODUCTS|日本製紙グループ

 

 他にも木質バイオマスを活用した食料品への転換事例は既に数多く実現されています。

 ・木からお酒を造る。→ウッドスピリッツ社、WoodSpirits

 

 ・“木材”で香りづけされた調味料。→浅沼醤油、「木を食べる」? “木材”で香りづけされた調味料が新登場 森林と林業を未来へ…老舗しょうゆ店の思い【岩手発】|FNNプライムオンライン

 

 ・他にも多くの企業で木のパウダーを食品に混ぜる取り組みは行われています。

 

 古典的な木の食料への転換は木の芽をてんぷらにして食べる事です。私の家でもタラやコシアブラのてんぷらはよく食べます。

 

鉄筋コンクリート、鉄骨建築物代替

 木材を高層建築物に使えるように集成材、ハイブリッド集成材、CLT材、ハイブリッド建材、・・など多くの技術、製品が開発されてきました。

 

 構法に関しても、例えば接合部分は木造建築の弱点とされてきましたが、山形県の株式会社シェルターのKES構法(日本、米国、カナダで特許取得)により金物を使った構法により強度の高い木造建築が可能になりました。

 

 1995年の阪神淡路大震災の時には73棟のKES構法で建築された木造住宅が被災地にあったそうですが、全て倒壊を免れたそうです。

 

 その後も同社は耐火部材のCOOL WOOD(日本、カナダ、水素で特許取得)や曲線やひねりをもたせた部材のFREE WOODを開発されてきました。

 

 環境負荷の高い鉄鋼製品やコンクリートをなるべく使わず、木造建築に代替するということが重要です。私も所属している三菱総研のプラチナ構想ネットワークでは9階建て以下の建築物は全て木造建築に!と提言しています。都市空間全体を「第二の森林」として機能させる「木造都市」構想です。都市そのものを「二酸化炭素を排出する場」から「二酸化炭素を長期にわたって固定する場」へと変えていくという言い方もできるでしょう。

 

新しい建材、内装材、家具、プラスチック代替技術

 岐阜県に株式会社Spacewasp(スペースワスプ)というスタートアップ企業があります。この企業は木材や植物廃棄物から樹脂を抽出し、独自の樹脂加工技術を用いて、独自開発した3Dプリンターを使って全自動で内装材、家具、建材を製造します。

出典:スペースワスプ社ホームページ

 

独自開発した3Dプリンターで生産された製品例

出典:スペースワスプ社ホームページ

 

 このように3Dプリンターを使って生産していますから、様々な形状の建材、家具、内装材に活用可能です。例えば、既存の製材所、合板工場、製紙工場で発生する廃材をアップサイクルして新たな価値のある商品を作ることが可能となります。

 

 廃材を有償で引取ってもらっていた企業も有償で売却ができ廃棄物処理されないというメリットがあります。実際に運送会社で発生する木製パレットを有償で引取り、家具や建材に活用され始めています。

 

新しいガラス代替技術

 アメリカ・メリーランド大学カレッジパーク校に所属する材料科学者Liangbing Hu教授ら研究チームは、より効果的な方法で「透明な木材」を作りだすことに成功しました。

 

 新しく作られた透明な木材は、従来の透明木材と比べて50倍もの強度を持っている、断熱性能が高い、軽いとのことです。

 

 ガラスは製造時に高温を長時間使いますからエネルギー消費が大きな産業です。この技術はガラスを木質バイオマスにリプレイスすることでこの大きなエネルギー消費を抑え、ガラスよりも価値(強度、断熱性能、軽さ)の高い製品を作り出すというものです。

 

 製造方法は簡単で、

 1. 過酸化水素を塗布して天日にさらす。1時間程度で白くなります。

 2. 海洋開発用に設計された透明なエポキシ樹脂を木材に注入し、木材の中にある小さな空間や穴をすべて埋めて硬化させます。木材の中にエポキシ樹脂が充てんされることで、白かった木材が透明になります。この透明化の原理は、白くて不透明なティッシュを水に濡らすと、半透明になって向こう側が透けて見えるようになるのと同じ理屈だと、研究チームは説明しています。

 

 私の調べたところによるとまだ、製品化して販売したという企業は無いようですから、研究機関や行政から支援してもらって製品開発に取り組んでみてはどうかと思います。

 

新しい外装材、構造材、刃物代替技術

 2018年、ステンレスの3倍も硬い木質由来の材料が先述のガラス代替技術と同じ米国のメリーランド大学の科学者リャンビン・フー(Liangbing Hu)氏が開発しました。

 

 同氏は数年をかけて技術を改良し、かつては製造に一週間以上かかっていた工程を数時間まで短縮することに成功しました。商用化の準備が整うと、彼はその技術をスタートアップ企業InventWood(インベントウッド)に提供します。現在同社は外装材の製造販売に注力しています。

 

 今年の夏より、鋼鉄よりも硬い「スーパーウッド(Superwood)」の生産に取り組み鉄鋼やコンクリートをリプレイスしていく戦略のようです。建築物が排出する炭素の90%は、建設時に使われるコンクリートと鋼鉄によるものであり、スーパーウッドが普及すれば、建築業界にエコロジーな革新をもたらせるでしょう。

 

 InventWoodによると、スーパーウッドは、鋼鉄よりも50%高い引張強度を誇り、強度対重量比では10倍の性能を有するといいます。

 

 加えて、高い防火性能や腐食・害虫への耐性、ポリマー浸透による屋外使用の適性といった特徴も持ち合わせているとのこと。さらに、スーパーウッドは、圧縮処理での色味が凝縮により、高級な熱帯広葉樹のような美しい外観も実現しています。染色を施さなくても、クルミ材やイペ材のような深みのある色合いになる点も注目すべき特長です。

 

 また、刃物への適用も可能でしょう。

 上記、ナイフが木製であることに注目!

 

 日本には岐阜県の関市のように世界でも有数な刃物産地があります。(世界の3S:関市、シェフィールド、ゾーリンゲン)。木製のナイフを製造し、新たなブランドで高付加価値商品を開発し、世界に展開できたらいいですね。

 

最後に

 今回は外材や化石燃料以外で私が注目する木質バイオマスへの代替技術を列挙させて頂きました。他にもありますが、経済的地球環境的にインパクトの大きな食料、鉄鋼、コンクリート、プラスチック、ガラス代替製品にフォーカスを当てました。

 

 今後もこうした技術はたくさん出てくると思いますが大切なことはこうした技術を早急に取り込んで自社製品開発に活かす事です。

 

 なかなか研究機関にアクセスできないとか、資金が不足するとか、問題は山積しているでしょうが、現在は研究機関も金融機関も新しいチャレンジには応援していこうという機運が高まっています。

 

 また、セミナーやシンポジウムも毎日どこかで開催されているような状況ですから、こうしたイベントに参加し、関心のあるテーマの講演者と意見交換させて頂ければ意外に簡単に新しいアイデアが実現するかもしれません。

以上、ご関心あれば下記までご連絡下さい。

宮本義昭:メールアドレス:ym00876216@gmail.com

 

(過去のコラム)

第一回:人手不足対策、地域の空き家問題対策、リフォーム事業拡大

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第1回 - 日本木材青壮年団体連合会

・海外人材紹介と定着サービス:フューチャーデザインラボ社のご紹介

 

第二回:少子化問題と木材産業の成長

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第2回 - 日本木材青壮年団体連合会

・中堅中小企業の売上利益拡大を支援:Revitalize社のご紹介

 

第三回:リプレイス大作戦その1~石炭の代替

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第3回 - 日本木材青壮年団体連合会

・林業コンサルティング会社:KOSO社のご紹介

 

第四回:リプレイス大作戦その2~外材の代替

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第4回 - 日本木材青壮年団体連合会

 

第五回:リプレイス大作戦その3~天然ガスと石油の代替

【宮本義昭氏コラム】木材産業を成長産業へ! 第5回 - 日本木材青壮年団体連合会

 

(所属企業、団体)

株式会社バルステクノロジー 代表取締役社長

兼 株式会社KOSO アドバイザー

兼 日本木材青壮年団体連合会 広報委員会アドバイザー

兼 株式会社Revitalize アドバイザー

兼 株式会社Dione アドバイザー

東京科学大学(旧東京工業大学)基金特別会員

プラチナ構想ネットワーク 法人会員

先進EP研究会 会員

Asagiラボ 賛助会員

東海バイオコミュニティ 法人会員

林野庁 森ハブ・プラットフォーム会員

東京丸の内イノベーションプラットフォーム林業分科会

蔵前バイオエネルギー 正会員

 

(拙著:代表作)

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