木力NOTE ―木で未来をつくる人たちへ 第4回

第4回 木造建築を支えるプレカットの技術と知恵

 

日本木材青壮年団体連合会、会長の長谷川泰治です。

この会長コラム「木力NOTE」も、おかげさまで第4回を迎えました。今回は、木造業界に欠かせない存在となっている「プレカット」についてご紹介します。

 

家を建てるとき、昔は大工さんが現場で木材を一本一本、手作業で刻んでいました。柱や梁(はり)を組むための仕口(しくち)や継手(つぎて)と呼ばれる部分を、ノコギリやノミを使って削って仕上げる――いわゆる「手刻み」が当たり前だった時代です。仕口は、異なる方向の木材を接合する際に使われ、たとえば柱と梁のように直角や斜めに交差する部分に用いられます。一方、継手は、同じ方向の木材同士を直線的につなぎ、長さを延ばすための接合方法です。このような技術を駆使しながら、職人の手によって一つひとつ加工されていたのです。この「手刻み」は、建築現場や材木屋の下小屋といわれる倉庫の片隅などで行われていました。しかし現在の木造住宅では、多くの場合「プレカット」と呼ばれる工場加工が用いられています。プレカットとは、建築に使う木材をあらかじめ工場で加工しておく技術のこと。設計図に基づいて、専用の大型機械が木材を自動で切断・加工し、現場ではその部材を組み立てるだけで済むように準備されます。これにより、建築のスピードや精度は大きく向上し、工期短縮や人手不足への対応にも大きな効果を発揮しています。

<仕口(しぐち)>

<継手(つぎて)>

 

プレカットが本格的に普及し始めたのは1980年代以降のことです。当初は、伝統的な日本の木造建築の工法である在来軸組工法に対応した加工が中心でした。在来軸組工法とは、柱や梁、土台などの部材を、仕口や継手といった木の接合方法で組み上げる工法で、地域に根ざした木造住宅の多くがこの工法を採用しています。ちなみに現在の在来軸組工法では、接合部が抜けないように金物のボルト等で補強しています。プレカットの黎明期には、単体機と呼ばれる、仕口や継手を一つずつ加工する機械を使っていました。しかしその後、機械やソフトウェアの進化によって大型の自動加工機が登場し、木材を投入するだけで設計図どおりに自動で複数の加工をこなすことができるようになりました。現在ではその規模も年々大きくなり、1日に何十棟分もの木材を加工できる大型プレカット工場が日本各地に現れています。

<横架材プレカット加工機>

<合板プレカット加工機>

 

 さらに最近では、多軸NC加工機など高度な機械制御技術も活用され、従来の機械では難しかった複雑な納まりや繊細な加工も、高精度かつ安定して行えるようになってきました。また、従来の在来軸組工法だけでなく、金物を使って構造材を接合する金物工法への対応や、中大規模木造建築向けの大きな構造材(マスティンバー)を加工するための大型加工機も登場し、プレカットの適用範囲は大きく広がっています。このように、プレカットは住宅だけでなく、非住宅や特殊建築物にも対応できる技術として進化を続けており、木材建築の可能性を広げる大きな原動力となっています。

 

どれだけプレカット加工が進化したとしても、すべての作業を機械が自動的に行うわけではありません。プレカット工場では、まず設計図をプレカット加工用の図面に変換するための「プレカットCADオペレーター」が必要です。このオペレーターには、木の性質、構法、納まり、建設現場の状況など広範な知識が求められ、複雑な構造の特殊物件の場合は、大工と同じレベルの判断力が必要になることもあります。

<プレカットCADオペレーター>

 

さらに、工場の加工担当者は、木材1本1本の「元」と「末」を見極めながら機械に投入していきます。これは木の根元側(元)と先端側(末)を意味し、繊維の流れや強度の関係から向きを間違えると構造的な問題を引き起こす可能性があるためです。また、木材には「木裏」と「木表」という裏表の区別があります。「木表」は年輪の外側(樹皮側)、「木裏」は内側(芯に近い側)で、乾燥による反りやねじれの影響を受けやすい面でもあります。これらを正しく判断し、適切な向きで加工を行うことが、長持ちする木造建築には欠かせません。こうした判断には、木材に関する豊富な知識と、それを現場で活かす知恵が求められます。

<仕口の検査をするオペレーター>

<手加工を行うオペレーター>

 

プレカット加工の現場では、最前線で働くスタッフたちが、自然素材である木と丁寧に向き合いながら、毎日地道な仕事を積み重ねています。木と向き合う知識や創意工夫は、今でもプレカット工場でしっかりと生きているのです。木の力の一つに「加工性」があります。木は加工しやすいため、さまざまな形に加工ができ、多様な空間づくりが可能です。プレカットという見えない力に支えられた住まいには、たくさんの人と技術と想いが詰まっています。木の力と、人の力。木造建築に関わる者として、そのどちらも大切にしていきたいと考えています。