活動紹介 2025大阪・関西万博シンボル 大屋根リングが示す木材の可能性

・世界最大の木造建築物・大屋根リング

 

今年、2025年に開催されている大阪・関西万博。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、158の国・地域、7つの国際機関が大阪・夢洲に一堂に会し、共に未来社会について考えを発信する場として、国内外から高い注目を集めています。

 

そのシンボルが、巨大な木造建築物「大屋根リング」です。大きさは直径約615メートル、一周およそ2kmに及び、ギネス世界記録にも「世界最大の木造建築物」として認定されています。使用された木材の総量はおよそ27,000m³とされ、その7割をスギ・ヒノキなど日本国産木材で賄っています。

<写真>2025大阪・関西万博シンボル 大屋根リング(2025年6月 当会会員撮影)

 

・短工期実現のため建設業界と木材業界が総力結集

 

この巨大建築を実現するうえで最大の課題は、極めて短い工期でした。2022年7月に受注者が決定し、2025年4月の万博開幕までに、世界でも類例のない規模の木造建築物の設計、木質材料の選定・調達、そして工事を完了させる必要があったのです。

 

大手建設会社と木材業界は早い段階から協議できる体制を整え、設計・木材調達・施工の各分野で協力を構築しました。その結果、当初計画より1カ月前倒しとなる2024年8月に大屋根リングが開通(全周が接続)し、2025年2月末には竣工・引き渡しが完了しました。

 

受注者決定から2年7カ月、2023年6月末の着工からわずか1年8カ月で竣工を迎え、無事に大阪万博のシンボルとして供用開始されることとなりました。

 

この成果は建設事業者の設計・施工・管理能力を示すとともに、短期間で大量の木材を供給しきった国内木材産業の底力を、世界に示すものとなりました。

<写真>CLTの製造風景(提供:株式会社サイプレス・スナダヤ)

 

・大規模建築物への木材利用の歴史

 

日本は古来より木材を建築に有効活用してきました。法隆寺五重塔をはじめ、建築後数百年以上を経た木造建築物が多く現存し、日本が古くから木材を用いた高度な建築技術を有してきたことがうかがえます。

 

しかし、太平洋戦争期の連合国軍による爆撃で多くの家屋が火災に見舞われ、多大な犠牲が生じた教訓から、戦後復興に際して日本政府は「燃えない街づくり」を掲げました。その結果、建築基準法では非常に高い防火・耐火基準が定められ、大型建築物はコンクリートや鉄骨で建設することが推進されました。

 

一方、世界では逆の流れが進みました。中央ヨーロッパを中心に、環境負荷の少ない木材で大型建築物を建設する動きが加速し、CLT(Cross Laminated Timber、直交集成板、2025/07/13 木力NOTE 第2回参照)など新しい木質構造材も開発されました。

 

日本は木材利用に関する技術・文化・資源を有していながら、この世界的潮流に乗り遅れ、大規模木造建築において後進国となってしまいました。しかし、大屋根リングの実績は、この遅れを大きく取り戻すきっかけになったと考えられます。

<写真>44m(11階建て)純木造高層ビルPort Plus 大林組横浜研修所(引用:日本木材青壮年団体連合会主催、木材活用コンクールWebサイトより

・大屋根リングが示した木材産業の可能性

 

日本で最も木材を利用しているのは住宅産業です。木造住宅のみならず、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住宅でも、内装などに少なくない木材が使用されています。そのため、木材産業は住宅着工戸数に大きな影響を受けます。

 

住宅着工戸数は1990年にピークを迎え、年間171万戸に達しました。しかし、バブル崩壊後の不況や人口減少により、2024年度にはピークの46%にあたる79万戸まで減少し、今後も減少が続くと予想されています。この動きに連動し、木材産業の経営環境も厳しい状況が続いてきました。

 

しかし時代は大きく変わろうとしています。環境への意識が高まる中、成長過程で二酸化炭素を吸収し、炭素を固定できる木材資源は「環境負荷の少ない素材」として注目されています。近年では都市部で10階層を超える高層建築物も木造で実現しています。

 

住宅着工戸数の減少は当面続くと見込まれますが、一方で非住宅の大型建築物に大量の木材が使われる未来が、目前に迫っています。これは大断面集成材工場やCLT工場だけでなく、そこに原木などの資源を供給する素材生産事業者、集成材やCLTの加工を担うプレカット事業者、さらに内装の木質化を支える木工事業者や内装木材製造事業者など、業界全体に波及効果をもたらすと考えられます。

 

2025大阪・関西万博のシンボルである大屋根リングは、川上から川下、そして建設事業者が一体となって実現した巨大プロジェクトです。ここで示された木材業界の力があれば、日本の木材産業の未来は非常に明るいものとなるはずです。

<写真>2025大阪・関西万博シンボル 大屋根リング(2025年6月 当会会員撮影)